この章では、実力を伸ばすために必要な学習法について考えてみたいと思います。
お子さんの授業理解度をチェックしてみる
どんな塾でもまず大切なことは授業をしっかり受けることです。
これができているかどうかは、授業で扱った内容がどれだけ身についているかを調べれば一目瞭然です。
何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、実際に早稲アカ生を教えてみると、それがまったくと言っていいほどできていないため驚かされる場合があるのです。
理解の「水溶液」の回の授業を受けてきたはずなのに、「塩酸」「炭酸水」「水酸化ナトリウム水溶液」「アンモニア水」の識別ができず、「飽和水溶液」の概念も分からない。
社会の「日本国憲法」の回を受けてきたのに、「生存権」の内容が言えず、「武力」と「戦力」の違いが分からない。
そこで、どんな授業を受けてきたのかと思ってノートを見せてもらうと、真っ白。
「先生黒板に何も書かないから」。
せめて予習シリーズに線引きや書き込みがないかと思っても、新品のように真っさら。
「どこが大事だとか、言われてないから」
これはある早稲アカ生の実例ですが、ポイントをまとめた板書もなく、「これだけは絶対覚える」という重要事項の指摘もないのに復習に取り掛からなければならないお子さんこそいい迷惑ですね。
入口で躓いてしまったためにその単元が苦手になる、苦手単元が積み重なってその科目自体が嫌いになる、こんな「負のスパイラル」に陥らなければいいのですが…。
ちなみにこの例のご家庭では、早稲アカに任せきりで保護者の方はまったくタッチしていなかったそうです。
お子さんの不振の原因は意外なことに塾の授業にあった。
そういうことも決して珍しいことではありません。
お子さんの学習状況に不安を感じたときは、まず授業の理解度をチェックしてみてください。
算数や理科の計算を伴う範囲の理解度を確認するには、実際に問題を解かせてみるのが一番です。
お子さんが塾から帰ったら、その日塾で扱った問題の中から典型的な2、3題を選び、お子さんだけの力で解かせてみてください。
お子さんが解いている間は、お子さんのノート(さすがに計算を伴う問題の解き方を板書させていない先生はいないでしょうから)や予習シリーズの解答・解説を読んで、利用した式、線分図や面積図、グラフや表の読み取りが正しいかどうか、見よう見まねではなく、それらの意味が分かって使っているのかどうかなどを確認してください。
社会科の授業や理科の生物・地学系の授業のように解説が中心となる授業は、用語の意味や関連性(「応仁の乱はなぜ起こって、その後世の中はどう変化したのか」など)、自然現象が起こる科学的理由(「低気圧が近づくとなぜ天気が悪くなるのか」など)、実験・観察データや調査データの読み取り等を確認してみてください。
ご注意いただきたいのは、全く問題が解けない、何一つ説明ができないということがあってもお子さんを叱ってはいけないということです。
この確認はあくまで家庭学習の計画を立てるために行うものです。
それが争いの種になって、学習が滞るどころか親子の信頼関係にひびが入るようでは本末転倒というものでしょう。
学習計画はフレキシブルに
授業の理解度が把握できたら、次は学習計画の練り直しに入ります。
例えば月曜日に算数の授業があったのに、その内容がほとんど理解できていなかった場合は、宿題に取り掛かる前に「必須例題」ないしは「先生が授業で用いた例題」の解き直しが絶対に必要でしょう。
塾の宿題は「どの生徒に対しても授業がある程度うまく行われたという仮定のもとで授業内容を定着させる」ために出されるものですから、お子さん1人1人の理解度に応じたきめ細かさなどそこには望むべくもありません。
根本から解き直した上で宿題に「チャレンジ」し、その出来がよくなければ(目安は3分の2程度)、土日に必ず再復習の時間をとりましょう。
逆に授業内容が非常によく理解されている、ほとんど授業内完結といっていいレベルに仕上がっているのであれば、家庭ではざっと確認するだけで十分、本当は宿題すらやる必要はないのですが、宿題の提出がないというだけで激怒する先生も多いようですから、最短時間で形を整え、できるだけ他のことに、たとえば先週よくできなかった理科の再々復習をするとかに時間を使うようにするのが賢い方法です。
週ごと、日ごとの学習スケジュールを立てることは大切なことですが、スケジュールはあまり細分化せず授業の理解度によってフレキシブルな活用ができるようにしておくとよいと思います。
6年生1学期の学習スケジュール例
月曜…算数 水曜…理科・社会 金曜…国語 土曜…YT受講 の場合
15:35~16:10 | 学校の宿題 |
---|---|
16:20~18:40 | 早稲アカ① 前日授業の復習中心 |
18:40~20:00 | 入浴・夕食・自由 |
20:00~20:40 | 計算・漢字・語句・年号など |
20:45~22:00 | 早稲アカ② ①の続き、先週理・社の復習、組分け対策など必要に応じて使い分ける |
8:30~10:00 | 早稲アカ① 前日授業の復習中心 |
---|---|
10:10~12:30 | YT対策 「週テスト問題集」(YT講座受講) |
17:30~18:30 | YT復習 |
18:30~20:00 | 入浴・夕食・自由 |
20:00~ | 頑張れるところまで 早稲アカ② ①の続き、先週理・社の復習、組分け対策など必要に応じて使い分ける |
日曜日のスケジュールは「空白」にしておくのが一番でしょう。
学校や地域の活動に参加する、家族で外出する、録画しておいたテレビ番組を見る等いろいろなことに使えると同時に、「そこに勉強とは違う時間がある」という意識がお子さんの精神的、肉体的なストレスの軽減に役立つはずです。
もちろん、その週の学習に不安が残るとき、組分けテストが近いときに数時間を学習時間に転用することもできますし。
「では一学期のNN(日曜特訓)はどうするのか」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
答えは簡単です。そもそもNNは、平常授業の理解や家庭学習の方法に問題が残る状況で受講する講座ではありません。
それらが順調に進んでいて、なおかつプラス・アルファを必要とするお子さん向けの講座なのだとご理解ください。
早めの取り組みが余裕を生み出す
フレキシブルな対策をしようと思えば、「早く始める」ことがまず大切になります。
4~5年生ならば授業の翌日夕方に(翌日が休みであれば朝一番で)、6年生は(かなりきついとは思いますが)授業があったその日の夜には復習に取り掛かるようにしましょう。
就寝が午後11時を過ぎてしまう場合もあるかもしれませんが、学年が学年だけに仕方ないことだと思います。
そもそも6年生ともなれば、クラスや成績に関係なく、塾から帰ったらできるだけ早く復習の第一段階を済ませるという習慣をつけたいものです。
早め早めの対応は後に余裕を生み出します。
先ほど申し上げた「授業の理解度確認」にしても、その日のうちに済ませておけば翌日をフルに活用しての対策に当たることができます。
復習しているうちに新たな問題点が見つかり、そちらにも時間を割かなければならない場合だって出てきます。
また、これはまだ絶対的な真実とは言えませんが、寝る前の記憶の方がよく残るという説も無視はできません。
皆様のお話を伺うと、「塾から帰ったらもう何もできないので、翌朝早めに起こしてやらせている」というご家庭も多いようです。
それで問題がなければあえて変える必要はありませんが、「朝起こしてもなかなか起きない」、「起きても不機嫌でいつもけんかになる」という状況であれば、先にやらせてしまうに越したことはありません。
まず基礎を徹底的に固める
組分けテストの範囲は直近の予習シリーズ3~4回分です。
予習シリーズ1回には、5年生までなら原則1つ、6年生の前半は2つから3つの単元で構成されています。
また、前回の範囲も一部出題されますから、組分けテストの対策として、5年生は1教科5~6単元、6年生では10単元程度の復習をすることになります。
成績がまだ平均に届いていないお子さんは、それらのすべての単元において、基礎レベルの問題を完全に、そしてほとんど機械的に解けるところまで訓練する必要があります。
基礎レベルの確認ができる教材としては、算数の「基本演習問題集」や算数・理科・社会の「Wベイシック(チャレンジ以外)」が挙げられるでしょう。
このレベルの問題をマスターできれば、算数は200点中88~96点、理・社は100点中50点程度取れるようになります。
平均点まであと一歩ですね。
もう一つ、忘れないでいただきたいのは、このレベルの問題が、中学入試では「参加標準記録」に相当する問題なのだということです。
受験に失敗しないための絶対条件、受験に成功するための最低条件と言い換えてもいいでしょう。
単に目先のテストやクラスだけのことではなく、中学入試の流れ全体の中で大きな意味を持つのです。
理解度のチェックはここでも大切
早稲アカ生の悩みとして「宿題が多すぎて、自分の勉強ができない」という内容のものがあります。
実際に早稲アカ生を教えてみると、たしかに宿題の「量」は多いですが、指定されている範囲や問題レベルについては、おおむね妥当だと感じる場合がほとんどです。
基礎の大切さはわかるが何をやればいいのかがわからない、という場合は、本当に単純なことですが、まず「宿題を一生懸命やる」ことから始めていただきたいと思います。
心配なのは、宿題=ノルマという意識でつい「終わらせる」ことを優先してしまうことです。
それを防ぐためには、やはり「理解度のチェック」が必要だと思います。
この章の最初に申し上げた「授業の理解度」をチェックするのと同じで、その週のポイントになりそうな問題を自力で解けるか、答えられるか、ここでも確認してみるべきです。
そして、このチェックもできるだけ早い時点で行うことをお勧めします。
YTの週テストでその週の確認を、というのは4年生からせいぜい5年生前半までの話です。
月曜、火曜の授業範囲の抜け落ちを土曜日に発見、ではあまりに悠長すぎます。
5年生の夏以降は「問題点の先送り厳禁」という意識を持ってください。
伸びていくためには得意科目にも力を注ぐ
さて、成績も安定して常に偏差値50を維持できるようになったら、今度は「固める学習」から「伸ばす学習」に意識を切り換えていきます。
これまでは、全教科において一定以上のレベルを目指さなければなりませんでした。
そうしなければ、入試において「ここまでは大丈夫」という最低ラインを設定できないからです。
そのためにはどうしても苦手科目、苦手分野の克服に多めの時間を割く必要がありました。
しかし、「伸ばす学習」に入った後は、得意不得意にかかわらず、どの科目にも時間を配分していかなければなりません。
目安としては、算:国:理:社=2:1:1:1でしょうか。
算数は配点が多い上に最も差のつきやすい科目ですから、他の科目の2倍はやる必要があります。
もしお子さんが理科は得意で社会は苦手だという場合、理:社=1:1という配分は不安に思われるかもしれません。
しかし、「理科はもう完璧でやらせることはない」状態でない限り、これで構わないのです。受験今日も佳境に入った時期に苦手な社会が突然得意科目に変わるということはあり得ません。
社会は「負け(=受験校の合格者平均との差)」をできるだけ少なくする、理科は、社会の「負け」を補って余りあるほどに高得点をめざすことが、このお子さんを合格に近づける現実的な作戦です。
宿題のやり方にも工夫が必要
「宿題の多い塾」というイメージで語られることが多い早稲アカですが、実際に早稲アカ生を教えてみた感想では、「確かにそのとおり」と納得するしかありません。
宿題の内容や量は各先生の判断に任されているようですが、「あれもこれも気になるから結局全部」的な出し方をしている先生が非常に多いように思えます。
上位クラスに上がったのはいいが、授業の内容以前に宿題の量に目が回ったなどという話も聞きます。
ある意味早稲アカの対極を行っていたSAPIXにも最近その手の先生が散見されるようになってきましたし、そもそも宿題量が多いこと自体にはいろいろな考え方があるので一概に批判する気はありません。
ただ、出す方がさほど吟味もせずに決めた宿題(授業でやり残した箇所をそっくり、「家でやっとけ」といって宿題に加える場合もあるくらいです)に、絶対的な提出義務を付与するのはどうかと思います。
そのくせ、生徒が懸命に終わらせて提出した宿題を、先生が丁寧に見て、理解不足のところを個別でフォローしてくれたり、家で復習できるように添削してくれたりしたなどという話は寡聞にして存じません。
そんな状況でどうやって「家庭学習による知識の定着」をすればいいのでしょうか。使える時間は限られているのに、です。
実際に指導で行った例をお話しいたします(算数の例です)。
- 宿題範囲のうち、お子さんが特に力を入れるべき問題(実力相応からやや上の問題、およびその授業回における必修問題、さらに入試頻出問題など)を選別してまず確実にやらせ、完全理解に至らせる。
- 1.より易しい問題グループは、1.でやらせた問題が思いのほかできなかったときだけ基礎の再確認のために扱う。
ただ、そこをやった形跡がないとお子さんが塾で叱責されるということだったので、とりあえずノートに空きを作っておき、あとで答えを写して〇もつけておくよう指示する。 - 1.より明らかに難しい問題は設定した時間の範囲内で考えさせ、適度にヒントを与えながら正解に行きつかせる。
その際必ず問題番号にチェックを入れ、週末の再復習時のメイン課題とする。 - お子さんの実力とかけ離れた問題はやらせない。
ただ、2.と同じ理由でノートには解答を写しておくよう指示する。
このようなやり方に変えたのは、このお子さんとの最初の授業で、1週間前に宿題として解いた特殊算の典型問題を自力ではほとんど再現できないのを発見したからです。
どうやら彼の場合は宿題を「終えること」が主眼で、理解は二の次になっていたようです。
やり方を変えてからはお子さん1人で4時間かかった宿題が2時間~2時間半で終わるようになり、重要問題の再復習、類題演習、組分けテスト対策などに時間を振り向けることができるようになりました。
組分けで80~96点だった算数の得点が120点を超えるようになりました。
なお、2、4にあるような姑息なことはしたくなかったし、その時間さえ惜しかったのですが、お子さんが塾で無駄なストレスを溜めこまないためには止むを得ませんでした。
もちろん、宿題は全部こなせるし、力も確実に伸びているというお子さんにお会いしたケースもないわけではありませんが、そういう方は決まって偏差値が60以上で、塾のフォローよりも上位校合格に向けての学習を中心に指導したお子さんたちでした。
「授業の理解度」や「復習の理解度」をチェックするのと同様に、「宿題内容の重要度」もしっかりチェックしましょう。
そしてお子さんが伸びていくのに必要なものを優先してやるようにしましょう。
宿題は実力アップの手段であって、自己目的化すべきものではありません(ちなみにこの「自己目的化」を英語ではactivity trapというそうです)。
困ったときは塾よりも、客観的立場の専門家にご相談を
成績が思うように伸びず、苦しんでいるお子さんを見るのはつらいものです。
しかし、「こうすれば必ず成績が上がる」という単純な処方箋は存在しません。
ここまでご紹介してきたことにしても、早稲アカにお通いの皆様から寄せられるお悩みに対する、ごく一般的な対処法に過ぎません。
受験生が100人いれば、100通りの学習法があるのです。
いえ、1人のお子さんであっても、成績の推移、精神的な成長度、志望校や併願パターンの変更によって、方針の転換や修正を余儀なくされる場合があります。
ずっと1つの組織の中にいると、客観的な視点を持てず、その組織の常識の中でしか思考できなくなるのは人間の性です。
それは中学受験の世界でも同じことで、早稲アカには早稲アカの、SAPIXにはSAPIXの常識があり、先生たちがその枠を超えてアドバイスをするというのは難しいものです。
そういうときに役立つのは、中学受験を熟知し、なおかつどの大手塾とも距離を置いて客観的なアドバイスができる専門家の存在です。
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