『社会』は一定レベル以上でなければ負けてしまう
中学入試における社会という科目の位置づけですが、女子学院、鴎友など一部の中学(これらの学校は4科オ-ル100点です)を除いて配点は算国の5~7割、合格者と不合格者の得点差も算数ほどは大きくない、ということで、何となく軽視されてしまいがちな科目です。
「社会なんて覚えるだけ」「社会はあとから追い込みが効く」などという表面的な認識も、不遇な( ? )立場に置かれる一因になっているのかもしれません。
けれども、「覚えるだけの科目なのに、なぜ覚えられないのだろう」「みんなが追い込みをかける時期に追い込んでも、果たして差は縮められるのだろうか」という視点に立ってみると、そうそうのん気に構えてもいられないことが分かると思います。
ましてや、合格者と不合格者の差が小さいということは、「一定レベルに達していなければ、受験者のほぼ全員に負ける」ということなのです。
サピックスの社会はそのカリキュラム、授業教材の質において、他の追随を許さないクォリティを誇っています。
また、サピックス生のノートには、各先生の工夫したまとまりのよい板書がそっくり写されています。
にもかかわらず、授業中の理解が足りないために、家でデイリーステップを開いてもまったく手がつかないというお子さんは決して少なくないようです。
サピックスの社会のカリキュラムは、4年生から5年生の前半に地理、5年生後半から6年生の4月には歴史、公民は6年生の5~7月に学ぶように組まれています。
「スパイラル方式」(一度学んだ分野が時を置いてまた現れ、新しい知識を加えつつ再確認できる螺旋形の積み上げシステム)は社会にも生かされていて、4年生で習った地理を5年生の一学期に、5年生の後半に習った歴史を6年生の春に、それぞれ復習、強化できるように作られています。
さらに6年生の土特では、公民をふくめたほぼ全分野を基礎から復習することができます。時事問題だけは、その性質上6年生の冬期講習や正月特訓で扱うことになりますが、組分けテストやオープンテストにうまく組み込んで平素から時事に関心を持たせる工夫をしています。
サピックスのカリキュラムはペースが速い、とよく言われますが、決してそんなことはありません。
内容的にも非常に充実したカリキュラムです。
このペースに遅れずに勉強を進めていけば、必然的に力がつくようになっています。
サピックスの社会を伸ばすために
「覚える」とは「理解する」ことだと思うべし
先述したように社会は「覚えるだけ」の科目ではありません。
しかし基本はまず覚えることです。
ただし、その覚えることには理解が伴っていなければなりません。
それがないと、すぐに忘れてしまったり、他のものと混同してしまったりします。
せっかくテストに出てきたのに、何のことか分からず答えられなかったりもします。
理解といっても難しいことではありません。
社会で覚えることのほとんどは「名前」です。
人の名前、土地の名前、事件の名前、システムの名前、自然現象の名前…第一段階としては、そこに「何をした人なのか」「何で有名な土地なのか」「どういう事件なのか」といった情報を、ほんの一言でもいい、付け加えられるようになればいいのです。
「田沢湖=日本一深い湖」、「院政=上皇の行った政治」、初めはこの程度でかまいません。
次に、関連付けです。
「刑事裁判に対し民事裁判、違いは何か」「自由民権運動→内閣制度→大日本国憲法→帝国議会」前者は国語でいう対比型、後者は順接型にあたる関連付けの例です。
頭の中でこういうことができるようになれば、デイリーサピックスの基礎問題には十分対応ができます。
そしてそれが一文で記述できれば、発展問題にも対応できるようになります。
覚えるために書いてみよう
社会において、他塾生と比べたときにサピックス生が圧倒的に優れているのは用語の漢字表記力です。
入試での漢字指定は明らかにふえています。
知っていても書けなければ得点にはならないのです。
また、漢字で覚えようとすれば、どうしても何度か書いてみなければなりませんから、「テキストやノートを見ただけで勉強した気分」を排除することもできます。
さらに、漢字は表意文字ですから、字を覚えることで用語のおおまかな意味が把握できるようになります。
漢字表記については、5年生以上は絶対、4年生もできるだけ守るようにしてください。
地図、年表も書いてみましょう。
前項で書いた「関連付け」の具体的な方法として、地図や年表に知識をまとめていくことは非常に有効です。
まず地図について、4年生から5年生前半にかけては「サピックス白地図」をやっていくとよいでしょう。
普段忙しければ、夏休み、冬休み、年度の変わり目や春休み、GWを利用して集中的にやるのもいいかもしれません。
5年生のうちに「発展編」まで終われば理想的です。
白地図には直接書き込むのではなく、必ずコピーしたものに書くようにしましょう。
(ノートに答だけ書くやり方は地図学習にならないため意味がありません)。
6年生の仕上げ時期には、付録の自由作業ページを使って自作のテーマ別地図を作ります。
歴史のまとめには、テーマ別年表、時期別年表を作ってみる方法が役立ちます。
単に年号暗記のためではなく、事件と事件の関連性、因果関係をとらえることができるからです。
たとえば1853年~1868年(ペリー来航から明治維新)、1931年~1945年(いわゆる「15年戦争」)などの年表はぜひ空で書けるようになってください。
塾から帰って、塾に行くまでのあいだに
塾から帰ったら、その日のうちにデイリーチェックの確認とデイリーステップをやってしまうべきです。
6年生はそれで夜10時を過ぎると思いますが、そうしなければ授業の記憶も薄れるし、翌日の復習時間(国・社2教科分になります)が苦しくなってしまいます。
そして翌日、改めてデイリーサピックスを全文(表紙や偶数ページ、資料や図版もふくめて)読み直して確認問題を解きましょう。
答はノートないしはコピーに書き、間違えた問題はテキストにチェックを入れておきましょう。
また、必ず本文にもどって、ここを忘れていたから間違えた、という箇所に線を引きましょう。
基礎問題だけに止めるか、発展問題まで進むかはお子さんの成績や他教科との兼ね合いで判断してください。
あとは次回デイリーチェックの直前に、必ず間違えたところの確認と全文再読み込みをしておくようにしましょう。
分野ごとの学習について
次に、社会科の各分野について、苦手克服や成績アップ、入試対策につながりそうな学習法をいくつか紹介したいと思います。
地理の学習
こまめに地図「アトラス」を調べましょう。
その際、調べた地名や、そこを探しているうちに気づいた地名には印をつけておきましょう。
さらに、たとえば岐阜県関市を「打刃物」で調べたのならその「打刃物」という一語だけは書き添えておきましょう。
統計の表から県や国、都市を答えさせたりする問題は皆さんが苦手のようです。
デイリーサピックスの右側に載っているグラフや表は、ただ眺めるのではなく、1つひとつの数字の意味やその変化の背景をしつかり押さえるようにしましょう。
世界地理では日本との関係が深い国が中心に出題されます。
現在政治的、経済的に結びつきの強い国、歴史的に関わりがあった国、時事問題で話題になった国について、その位置、特徴を把握しておきましょう。
もちろん、デイリーサピックスに出てくる内容が分かっていれば十分です。
ちなみに入試に出題されやすい地域は、「日本の周囲の国々」「中東」「東南アジア」「西ヨーロッパ」です。
歴史の学習
歴史の学習のポイントは、因果関係をつかむことです。
「なぜそうなったのか」「その後どうなったのか」という視点を常に持ち、1つの出来事を過去と未来でサンドイッチにするような理解を心がけてください。
デイリーサピックスはすばらしい教材ですが、歴史を物語のようにたどっていくには不便な作りになっています。
もし歴史が苦手であれば、「応用自在」などの参考書などを買ってきて、まずは歴史の流れをつかむところから始めてみましょう。
5年生の前半までに、歴史漫画を1シリーズ読み終えておくのも、導入としては役に立ちます。
歴史が苦手だというお子さんにどの時代が特に苦手かと聞くと、大概は明治以降、つまり近現代史だという答が返ってきます。
しかし、入試に出題される比率は江戸以前と明治以降でほぼ5:5なのです。
日清、日露、第一次大戦といった大きな戦争ごとに、または「国会開設」「条約改正」「選挙権の拡大」といったテーマごとにしっかりまとめを作るようにしましょう。
公民の学習
公民の難しさは何よりお子さんには馴染みのない単語がたくさん出てくることにあります。
周囲の大人が、身近で具体的な例を挙げながらその意味を教えてあげると、知識の定着度はぐんと上がるはずです。
サピックス生は「知りたがり屋さん」ですから、意味を伴わない丸暗記にはついてきてくれません。
その点ではご両親の腕の見せどころでもあるわけです。
公民は6年生の4月からスタートするため、地理、歴史ほど復習の時間が取れません。
そのことを念頭において、最初に習った時点でほぼ仕上げる覚悟が必要です。
5月、6月のマンスリーテストと7月の復習テスト対策に全力を尽くしましょう。
時事問題の大部分は公民分野と関わるものです。
サピックスの授業で時事問題を演習するのは6年生の冬休みですから、1月受験をされるお子さんにはまさに直前、当然早めの対策が要求されるわけです。
- 過去の時事問題集に目を通し、どういうものが出題されるかを知っておく。
- 日々のニュースに関心を持ち、その背景や識者の意見も調べておく。
- そしてサピックスの時事問題集「重大ニュース」が発売されたら早めに解き進めておく
こうした流れが大切になってきます。これもぜひご両親に協力していただきたいところです。
また、4年生、5年生も「重大ニュース」は購入して、親子で読んでみてください。
記述の練習
記述問題のタイプは2種類あります。
「知識さえあれば答えられるタイプ」と、「与えられた資料から読み取れること、身近な社会現象の背景として考えられること、ときには自分の推測や意見の記述が求められるタイプ」です。
前者については、平素から単純な用語暗記ではなく、定義の確認、因果関係や背景の理解を心がけた学習をしていれば何も問題はありません。
「南北問題とはどういう問題か」「国会が国権の最高機関と呼ばれる理由は」「太閤検地の結果農民はどうなったか」いずれもデイリーサピックスにしつかり記述されていることですね。
実際に書く練習としては、土特教材のBタイプ基礎編を実施するだけで十分です。
後者については、受験校の過去問を見て必要なら対策を打つという姿勢でかまわないでしょう。
たとえば麻布や武蔵、海城の長文記述は、資料として与えられた解説文をきちんと読んでいけば、満点は取れなくても合格できる答案作成は可能になります。
対策としては、土特のBタイプ発展編と、SS特訓の教材、受験校の過去問、それでも心配であれば、似たタイプの学校の過去問で練習しておけばよいでしょう。
書くときは短い文の積み重ねでもかまいません。
気の利いた表現などまったく必要ありません。
出題者の求める要素が入っていれば、その分だけの部分点は与えられます。
過去問の解答例などは「出来過ぎ」の例であって、あのようなものに惑わされるとほんとうに大切なことを見失ってしまいます。
社会科を通じてお子さんを「大人」に
お子さんと社会の勉強をするときは、単に用語を教えるだけではなく、その意味や背景を大人の視点から、しかし子どもでも分かる言葉で説明することを心がけてください。
他の子より深い理解ができるように、また、そういう説明を通じて、お子さんの社会的視野がぐんと広がるように。
そしてお子さんが新聞やテレビのニュース番組に興味を示すようになったらしめたものです。
自分の中から生まれてきたものが一番強いのです。
よく国語で「説明文がわからない」というお子さんに出会いますが、そういうお子さんは得てして自然科学、社会科学に対する関心、今生きている世界に対する好奇心が発達していない場合が多いようです。
サピックスの基本姿勢はお子さんのそういう部分を育てることにあり、そのポリシーに沿って教材も作られています。
ぜひご家庭でもそのあたりを意識した接し方をしてあげてください。